警察官や刑事ではなく、泥棒が主人公の小説を読んだ。横山秀夫「影踏み」である。主人公・真壁修一は、忍び込みのプロだから”のびかべ″と呼ばれる。のび師などというと、なにか職人めいて格好よく聞こえるものの、人の家にかってに入り込んで、痕跡を残さないでひと仕事をするってのは、やっぱり泥棒だというほかない。著者の横山秀夫氏は上毛新聞記者出身だが、間違いなく人の家に忍び込んだ経験があるのではないか、と錯覚させるほど、迫真性に溢れた描写場面が連続する(夜中に読むのは落ち着かなかった。防犯小説との読み方もあるかもしれない)。
この小説は、双子の兄弟が一人の女性をめぐって争った過去が背景に沈められている。争いに敗れた弟は自暴自棄になり、窃盗を犯してしまう。息子に絶望した母は発作的に家に放火し、無理心中を図り、弟は焼死する。これをきっかけに、司法試験に挑もうと勉強に励んでいた兄・修一もまた犯罪に手を染め転落の道へ落ち込み、のび師の道を歩む。
実は、この小説を読みかけたと同じ頃に、N紙のコラムで某企業の社長が、ご自身の双子の娘が揃ってこのたび司法試験に合格したとの話を書いておられたのを眼にした。優秀な娘さんを持たれたこの社長には申し訳ないが、束の間、現実とフィクションを混同してしまった。
もし、一つの裁判で、原告側と被告側にこの双子の姉妹が検事、弁護士に別れて担当すると、どういったことになるのかな、などと少々空想の翅を伸ばさせてもらったのである。それというのも、やはり双子は思考傾向が似てくるに違いないと思うからだ。
小説における双子の兄弟においては、死んだ弟が、のべつまくなしに兄貴の耳元でいろいろと話しかけ、二人で会話をする。また、この小説にはもう一組の双子が登場し、”なりすまし”といった推理小説における常套技が使われる。筋を追うのに懸命だった当方が見抜けなかったのは、迂闊なことというほかない。ともあれ忙中息抜きの本となった。
Posted on 07.04.16 by AKAMATSU Masao
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